ユーディットがひとりパゴニアに帰郷し、ふたりが離れ離れになっていた間、アーデルベルトが何をしていたのかちょっと書いてみました。
タイトルは『いつか恋を知る日が来たら』。
アーセファ王子視点です。
SSと言いつつ約10000字あります(ごめんなさい)。
王太子殿下、思ってたのより愛が重い男でした……。
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ほんとは、ずっと前からわかってたんだ。
オレん家(ち)、なんかおかしくね?
オレん家は流民の一家だ。
オレの親父とおふくろは、まだ物心もついてないオレの手を引き、国境を超えて、この港町にたどり着いた。
親父とおふくろが生まれ育った故郷を捨てた理由を聞いたことはないが、なんでこの町を定住の地に選んだのかはなんとなく理解できる。
この港町には世界じゅうから、いろんな国のいろんな人種が集まってくる。
褐色の肌に、漆黒の髪、漆黒の瞳。いかにも南方人っていう親父とおふくろでも、この港町ならさほど目立つことはないと考えたんだろう。
あるいは、親父とおふくろは生まれ故郷で何かヤバいことでもやらかしたのかもしれない。それで、そこにはいられなくなって逃げてきたのかも。
まあ、全部ただの想像だけど。
何はともあれ、この港町で、親父は荷役の仕事を得、手先の器用だったおふくろはお針子やなんかをして、オレを育てた。
弟が生まれたのはオレが八歳の時。
子供心にも、あれ?って思ったね。
だって、赤ん坊のくせに弟は親父そっくりだったから。
その翌年に今度は妹が生まれたんだが、こっちはおふくろそっくり。
このころからよく言われるようになったんだ。
『アーセファだけ似ていないのね』
親父もおふくろも弟も妹も、褐色の肌に、漆黒の髪、漆黒の瞳。
いっぽうオレは、一応、黒い髪に黒い瞳だったが、漆黒にはほど遠く、肌も褐色と呼ぶのは憚られた。せいぜい、小麦色ってとこだ。
オレは気づいた。
ガキだったけど、気づいてしまったんだ。
『どうしてオレだけ違うんだ?』
そういえば、弟や妹は両親と同じ部屋で寝ているのに、オレにはひとり部屋が与えられていた。しかも、この狭い家の中で一番陽当たりのいい広い部屋だ。
町でもちょっと金持ってる家の子が通うような学校で読み書きや計算を習わせてもらったのもオレだけ。新しい服を縫ってもらえるのもオレだけで、弟や妹はオレやおふくろのお古を仕立て直した今にもすり切れそうな服を着せられていた。
魚はいつも一番大きいやつが親父やおふくろでなくオレの皿に乗せられたし、パンや肉も一番いいところが切り分けられた。
おまけに、親父は一度もオレを叱ったことがない。オレが、どんないたずらをしようと、どれだけ生意気な口を叩こうと、眉尻を下げ、困った顔をするだけだ。
なのに……。
弟が三歳の時だった。いや、二歳だったかな? まあ、そんくらいのチビのころ、弟は騒ぎを起こした。近所の家に向かって石を投げたのだ。ようやく歩き始めたばかりの妹も一緒だった。
その家にはよく吠えるデカい犬がいた。弟にしてみたら、ただ怖かったから石を投げたんだろうが、それを知った親父はものすごい剣幕で弟と妹を叱った。
初めて遠慮なくデカい声で怒鳴る親父の声を聞いて、オレは、驚くと同時に、妙に悟ったね。
ああ。オレ、この家の子じゃないのかもな、って。
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